マンションの評価方法の見直し 

今年6月末、「マンション節税防止!」や「タワマン相続、過度な節税に歯止め!」といった見出しが新聞記事やインターネット上を踊りました。 

今年1月から国税庁の有識者会議でマンションの相続税評価額に関する審議が行われていて、その中で評価方法の見直し案が公表され、その内容が一斉に報道されたためです。 

このマンションの評価方法の見直しは今後相続税にも大きな影響を及ぼすものですので、今回はその見直しの具体的な内容と相続税への影響について解説します。 

目次

評価方法見直しの背景・経緯 

現在の評価方法と問題点 

現在、相続税におけるマンションの評価方法は、原則、国税庁の財産評価基本通達に基づいて土地と建物で各々次のように評価・計算したものを合算することになっています。 

①土地の評価方法 

マンションの敷地面積全体を路線価等で評価した価額を、専有面積の総床面積のうち被相続人が所有していた居室の専有面積の占める割合(いわゆる敷地権割合)等に応じて按分計算した価額  

計算式

土地(敷地利用権)の価額 = 敷地全体の面積×共有持分×平米単価(路線価等) 

②建物の評価方法

被相続人が所有していた居室の固定資産税評価額 

計算式

建物(区分所有建物)の価額 = 建物の固定資産税評価額×1.0 

マンションは高層になるほど総戸数が増えるため、一戸当たりの敷地面積は小さくなります。 また、建物の固定資産税評価額はマンション一棟の評価額を持分割合等で按分計算するだけで、階数による日照や風通し、眺望・景観などの違いは反映されていません。 

一方、実際のマンションの売買価格には通常上記のような要素や総階数・築年数等が織り込まれますので、いわゆるタワーマンションのような高層マンションの上層階ほど高額になる傾向があります。 

そのため、相続税評価額と市場の売買価格との間に大きな乖離が生じて、その乖離を利用して過度な節税が行われるケースも頻出するなど、近年大きな社会問題になっていました。 

国税庁の有識者会議による審議と経過 

昨年(令和4年)4月、最高裁において現行のマンションの評価方法の適否が納税者と課税当局との間で争われて一定の判決が下ったことを契機として、12月の令和5年度税制改正大綱に「相続税におけるマンションの評価方法については、相続税法の時価主義の下、市場価格との乖離の実態を踏まえ、適正化を検討する」旨が明記されました。 

それを受けて今年(令和5年)1月に国税庁の有識者会議(第1回)が開催され、検討が進んだ6月下旬の第3回会議において評価方法の見直し案が提示されるに至りました。 

今後は、その内容を踏まえて国税庁が作成した財産評価基本通達の改正案に対してパブリックコメント(意見公募)が行われて、必要な修正等が加えられた後に来年(令和6年)1月1日以降は新しい評価方法が適用される見込みです。 

新しい評価方法と相続税額への影響 

有識者会議(第3回)で提示された見直し案やパブリックコメントで公表された財産評価基本通達の改正案によると、新しい評価方法は以下のように考えられています。 

見直しの対象となるマンション 

新しい評価方法はすべてのマンションが対象というわけではなく、居住の用に供することができる区分所有登記がされたマンション一室を対象にしています。 

つまり、事業用の区分所有マンションや居住用であっても区分所有登記がされていないマンション(例えば、一棟買いのケース等)は新しい評価方法の対象外(現行のまま)ということです。 

また、居住用の区分所有登記がされたマンションであっても以下の条件に当てはまるものについては対象から除外されています。  

見直し対象外となる条件

☑ 地階を除く総階数が2階以下のもの(例えば、2階建低層マンション) 

☑ 区分所有されている居住用部分が3室以下で、かつその全てがその区分所有者又はその親族の居住用であるもの(いわゆる二世帯住宅) 

具体的な評価方法・手順 

その上で、新しい評価方法は、具体的には次のような手順で評価することになります。 

現行の相続税評価額を算出する 

従来通り、現行の財産評価基本通達に基づいて土地と建物の相続税評価額を算出します。 

②評価乖離率を算定する 

評価乖離率は今回新たに導入されたもので、マンションの売買価格に大きな影響を与えると考えられる”築年数”、”総階数”、”所在階”、”敷地持分狭小度”の4つの指標に基づき以下の算式により算定します。 

計算式

評価乖離率=A×△0.033+B×0.239+C×0.018+D×△1.195+3.220 

A:当該一棟の区分所有建物の築年数(1年未満の端数があるときは切り上げて1年とする) 
B:当該一棟の区分所有建物の総階数指数として総階数÷33 
C:当該一室の区分所有権等に係る専有部分の所在階 (複数階に跨る場合は低い方の階数、地階は零階とする) 
D:当該一室の区分所有権等に係る敷地持分狭小度として敷地利用権の面積÷専有面積

算式の細かな意味はさておき、乖離率の値は築年数が古ければ小さく、総階数や所在階が高ければ大きくなる性質がある相続税評価額と売買価格の乖離の度合いを表す一つの指標と考えて下さい。 

評価水準に応じて現行の相続税評価額を補正する

最後に”評価水準”(1÷評価乖離率)に応じて、①現行の相続評価額を次のように補正計算します。  

評価水準<0.6の場合現行の相続税評価額×評価乖離率×0.6 
0.6≦評価水準≦1の場合現行の相続税評価額×1.0 (補正無し)
評価水準>1の場合現行の相続税評価額×評価乖離率 
評価水準毎の補正計算式

つまり、評価水準が0.6未満となる(評価乖離率が約1.67を超える)場合は現行の評価額に乖離率と0.6を掛けたものが新たな評価額となり、概ね市場の売買価格の60%程度に上方修正(増額)されることになります。 

一方、評価水準が0.6以上1以下(評価乖離率が約1.67以下)の場合には評価額は現行のまま変わらず、更に1を超える(評価乖離率が1.0未満)場合には現行の評価額から反対に下方修正(減額)される形になります。 

評価方法の変更による相続税額への影響 

①高層マンション(タワーマンション)の場合 

従来の評価方法では、マンションの高層階と低層階でも専有面積が同じであれば評価額に差が生じることはありませんでしたが、新しい評価方法では評価乖離率が1.67を超えるか否かが分かれ目になりますので、所在階数の違いによって評価額に相応の差が生じる可能性があります。 

特に、評価乖離率が大きくなる傾向がある以下のような高層マンションでは今回の見直しによって評価額が上がり、相続税額にも大きな影響が及ぶ恐れがあります。 

評価乖離率が大きくなる高層マンションの条件

☑ 築年数が新しい 

☑ 総階数や所在階数が高い 

☑ 総戸数が多い(もしくは一戸当たりの専有面積が大きい) 

②その他一般的なマンションの場合 

実際には個別に計算してみなければ分かりませんが、5階建程度の一般的なマンションであっても比較的新しい物件については評価額や相続税額に影響があるかもしれません。 

また、評価乖離率は固定資産税の評価の見直し時期等に併せて実勢価格に基づき適宜見直すものとされていますので、今回の見直しによる影響はなかったとしても将来的に影響が生じる可能性はあります。 

③戸建ての場合 

今回の評価方法の見直しは、区分所有登記がされた居住用のマンション一室が対象ですので、戸建ての評価方法や相続税評価額には一切関係がありません。 

しかし、見直しの背景に相続税評価額と市場の売買価格との乖離があることを考えると、戸建てについても今後同じような状況が生じれば見直しが検討される可能性はありますので、引き続き注視しておく必要はあります。 

まとめ

今回のマンションの評価方法の見直しは相続税額にも大きな影響を及ぼすことになりますが、だからと言って「節税効果が弱まるなら早めに売却してしまおう!」などと考えて慌てて行動するのではなく、まずは物件の現状(評価乖離率の数値)とご自身への影響を正しく把握することが大事です。 

仮にマンションの評価額が市場の売買価格の60%程度に修正されることになったとしても、預貯金や株式等の金融資産に比べればまだまだ不動産の節税効果が高いことに変わりはありません。 

ご自身への影響を把握した上で早めに準備しておくことが重要です。 

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