土地相続の基礎知識
相続財産の中で最も高額なものであることが多く、遺産分割する際に誰がどのように相続するかで揉める可能性が高い財産が土地です。
土地の相続に関して実務的に解説すべき点は手続き面や税金面など数多くありますが、まずは基礎知識として知っておきたい”土地の調べ方”や”相続の仕方の違いによるメリット・デメリット”等を解説することにします。
相続財産としての土地の調べ方
亡くなられた方(被相続人)が遺言や財産目録を遺されていて、生前所有されていた土地の所在や内容が明らかになっていればいいですが、そうでなければ相続財産としてどのような土地があるのかを探すところから始めなければなりません。
(1)公的文書による名義確認
土地を所有していると行政機関に以下のような記録が残っていますので、それらを入手することで相続開始時(亡くなられた時)に被相続人が所有していたものであるかどうかを確認できます。
①固定資産税納税通知書(課税明細書)
土地が所在する市区町村役場(固定資産税課)から毎年4月頃にその年1月1日現在の所有者宛に送られてくる通知が『固定資産税納税通知書(課税明細書)』です。
そこには所有している土地の地番や地目、地積、評価額など、土地に関して最低限必要な情報が記載されていますので、直近のものがご自宅等に保管されていないかをまず確認しましょう。
②名寄帳及び固定資産評価証明書
前述の通知書は、対象となる土地が共有名義になっている場合は代表者(持分割合が最も多い人又は固定資産税を例年納付している人)にしか送られてきませんので、通知書が自宅に無かったからといって被相続人が土地を所有していないと判断するのは早計です。
そこで、被相続人が居住していた市区町村役場(固定資産税課)で被相続人の『名寄帳』の写しを発行してもらいます。
『名寄帳』は、市区町村毎に管理している土地や家屋の固定資産課税台帳について所有者毎に纏め直したもので、記載内容に先の通知書と大きな違いはありませんが、共有名義の土地や固定資産税が課税されない土地についても記載されていますので通知書での抜け・漏れをカバーすることができます。
共有のものや非課税のものも含めて被相続人が所有していた土地があれば、後の相続手続きで必要になりますので相続開始日現在の『固定資産評価証明書』を合わせて取得しておきましょう。
③登記事項証明書(登記簿謄本)
そして、被相続人が所有していたすべての土地について、その土地を管轄する法務局で『登記事項証明書(登記簿謄本)』を取得しましょう。
『登記事項証明書(登記簿謄本)』は、先の通知書に記載されている土地の基本的な情報の他、その土地を被相続人が取得した時期やその後の移転状況、権利関係(所有権や借地権、抵当権設定の有無等)が詳細に記載されていますので、その土地の所有権等が相続開始時に被相続人のものであることを確認します。
(2)概算評価額の試算
土地の所在等が分かったら、その土地をどのように相続するかを判断する一つの材料としてその土地がどのくらいの価額なのかを試算します。
土地の評価方法は地目や用途によっても異なりますが、宅地であれば(1)①あるいは(1)②に記載されている評価額(課税標準額ではありません)を約1.1倍(×8/7)したものが相続税における自用地としての概算評価額になります。
土地を相続する際の方法とメリット・デメリット
土地の概要や概算額が把握できたら、具体的に誰がどのような形で相続するのかを決めることになりますが、相続人が土地を相続する方法には幾つかあり、各々メリットとデメリットがあります。
単独名義で相続(現物分割)する
一つの土地をそのままの形で特定の相続人が一人(単独)で取得する方法です。
単独でその土地の権利を取得できるため、以後その土地をいつでも自由に使用・処分できることが最大のメリットですが、その他にあまり相続財産がない場合には相続人間で公平性が保てなくなるため、他の相続人の合意が得られ難いというデメリットがあります。
ただこの方法は最も単純で分かり易く手続きも簡単なため、他の相続人からその土地を単独で取得することに合意が得られるのであれば最も望ましい方法と言えます。
共有名義で相続(現物分割)する
一つの土地をそのままの形で複数の相続人が共有で(持分に応じて)取得する方法です。
複数の相続人が持分に応じてその土地の権利を取得できるため、相続人間での公平性が確保できるメリットがあります。
反面、その後も共有者間でその土地を管理・使用・処分することに関して意見が一致していれば良いですが、意見が食い違ってしまうと簡単には解決できなくなるという点が最大のデメリットです。
共有名義のまま次世代への相続が進むと、共有者の数も増えて収拾がつかなくなることは容易に想像できますので、「協議するのが面倒だから取りあえず共有で相続しておこう」といった安易な考えは避けるべきでしょう。
代償分割/換価分割する
相続人間での公平性を確保する他の方法として、その土地を取得した相続人が取得しなかった他の相続人に対して代償金を支払う(代償分割)、あるいはその土地を売却・換金して売却代金を相続人間で按分する(換価分割)方法があります。
代償分割はその土地を遺すことができる反面、取得した相続人に高額な代償金が必要になる点が、換価分割はその土地を遺せないことや売却・換金に手数料や税金等の費用が生じる点が各々デメリットです。
土地を分筆する
また、相続する土地がある程度地積のある1筆の土地であれば、その土地を2つ以上の筆に分けて(分筆)相続人が各々単独名義で相続する方法もあります。
この方法は、相続人間での公平性を確保しつつ、単独名義で相続した際のメリットが得られる点では優れていますが、分筆するには測量・登記等に相応の費用と時間がかかることや、分筆によって土地が狭くなり活用方法が制限される等が原因で土地の価値が大きく下落してしまう可能性があることには注意が必要です。
土地相続に関連する法制化の動向
最後に、土地の相続に関連して昨今2つの法制化が行われましたので簡単に紹介しておきます。
相続による所有権移転登記の義務化
従来、相続によって土地等の不動産を取得しても登記することは義務付けられていませんでした。その結果、所有者不明の土地が全国で数多く見られるようになり大きな社会問題となったことから、2021(令和3)年の不動産登記法改正により相続登記が義務化されました。
改正法の施行は2024(令和6)年4月1日からで、同日以後に土地等の不動産を相続した場合は相続の開始により所有権の取得を知った日から3年以内に登記を行う必要があり、正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料が科される可能性があります。
尚、施行日以前の相続により取得した不動産についても施行日から3年以内(2027(令和9)年3月31日まで)に登記を行う必要がありますのでその点は注意して下さい。
相続土地国庫帰属制度
また、将来の所有者不明土地が発生することを予防するため、相続等により土地を取得した相続人が一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする「相続土地国庫帰属制度」が新たに創設され、2023(令和5)年4月27日からスタートしています。
この制度では、「相続で土地を取得したものの遠方にあるため将来的に利用する予定がない」などの理由で相続人がその土地を手放したい場合に、土地を取得した者(共有の場合は共有者全員)が法務局に国庫帰属の承認申請を行い、承認されれば一定の負担金を支払うことで国に引き取ってもらうことができます。
施行日以前の相続により取得した土地についても対象ですが、建物がある土地や土地の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地など、申請・承認を受けることができないケースがありますので、詳しくは最寄りの法務局で確認するようにして下さい。
まとめ
ここまで土地相続に関する基礎的な知識について解説しましたが、実際に土地を誰がどのように相続するかについては、亡くなられた方の相続関係やその他の財産状況、あるいは相続税等の税金がどの程度生じるかによっても最善の方法は変わってきます。
また、これまでは相続した土地の登記を行わない人もかなりいましたが、登記を行わず長期間放置すると相続関係がより複雑になって将来親族の方々が大変な思いをされるだけです。
今回ご紹介した法制化はそのような状況を解消するために行われたものですので、実際に土地を相続される際はエピログ相続を活用するなどしてしっかり準備を進めていきましょう。