土地の評価を自分で行う方法 ~前編~
預貯金や上場株式のように市場等を通じて相続開始時の価額(時価)が明らかなものに比べて、不動産、中でも土地は公示価格の他にも幾つかの価格・指標があり、またその形状や接道状況等によっても価値が大きく変動することから、相続財産の中で最も評価が難しい財産とされています。
そのため、相続税等の申告に当たって土地を評価される場合、基本的には税理士等の専門家に依頼されることを推奨しますが、標準的な整形地(正方形や長方形)で特別な減価要因がなければ自分で評価することも不可能ではありません。
そこで今回は、自分で土地の評価を行う場合に必要となる基本的な知識と主に宅地等に関する具体的な評価方法を2回に分けて詳しく解説します。
評価を行うための事前準備
以前の記事『土地相続の基礎知識』でも解説しましたが、実際に土地を評価する前にまずは対象となる土地に関する様々な情報を集めて整理・確認しておく必要があります。
土地に関する情報収集
土地を評価する際に必要な情報が記載されている次のような公的文書を所管する行政機関から収集します。
①路線価図(又は倍率表)
相続税等における土地の評価で用いる路線価が記された図面(又は倍率が記された表)で、国税庁から毎年7月にその年1月1日現在の価額がホームページで公表されます。
「路線価」とは、国税庁が毎年全国の主要な路線(道路)毎に調査・評定した当該路線に面する土地1㎡当たりの価額のことをいいます。
②固定資産税課税明細書(又は固定資産評価証明書)
土地が所在する市区町村役場から毎年4月頃にその年1月1日現在の所有者宛に送られてくる明細書(又は必要に応じて発行してもらう証明書)で、対象土地の地番や地目、地積、評価額などその土地に関する基本的な情報が記載されています。
③登記事項証明書(登記簿謄本)
対象土地を管轄する法務局から必要に応じて発行してもらう証明書(いわゆる登記簿謄本)で、先の明細書等に記載されているその土地の基本的な情報の他に、過去からの所有権の移転状況などその土地に関する権利関係が詳細に記載されています。
④図面(実測図・地積測量図・公図等)
対象土地を取得する際に計測・測量した『実測図』や『地積測量図』があればその土地の正確な形状や実際の地積が分かります。
もし、これらの図面が無ければ、代わりのものとして法務局で『地図(法第14条第1項)』もしくは『公図(地図に準ずる図面)』を発行してもらう必要があります。
この他にも、必要に応じて以下のような図面を行政機関等から収集しておくと役立ちます。最近は自治体によってはホームページから様々な地図情報が得られますので、是非一度確認されてみると良いでしょう。
- 住宅地図(対象土地の位置を特定します)
- 都市計画図(対象土地の用途地域や容積率を判別します)
- 道路台帳(接道が建築基準法上の道路か否かセットバック要否等を判別します)
土地の現況確認
公的文書等で必要な情報を収集したら、できる限り現地に赴いて土地の現況を確認します。固定資産評価証明書や登記簿上の地目は”宅地”でも、実際に行ってみると土地の上に家屋はなく空き地になっているなど、現況が登記簿上の地目と異なっていることがあります。
また、現地で土地の間口と奥行を簡便的に計測して算出した地積が登記簿上の地積と大きく異なることもあります。
更に、前面道路との高低差、電線や樹木等の障害物や騒音・震動の有無など、実際には書面に記載された情報だけでは把握できないことも多く、それらが土地を評価する際の減価要因になることも少なくありません。
土地の評価はその時の現況によることが原則ですので、対象土地が遠方にあって交通の便も悪く、現地へ行くのに相応の時間と費用を要するなど、余程の事情が無い限りは現地に出向いて現況をご自身の目で確認されておいた方が良いでしょう。
土地の種類と評価単位
次に、相続税等の申告に際して土地を評価する場合は、国税庁の定める『財産評価基本通達』に基づいて行うことになります。同通達では土地の評価上の区分を以下の9つの地目に分け、地目別に評価単位毎に評価することとされています。
①宅地 | 1画地の宅地(利用の単位となっている1区画の宅地)を評価単位とします。 |
②田 | 1枚の農地(耕作の単位となっている1区画の農地)を評価単位とします。 |
③畑 | 1枚の農地(耕作の単位となっている1区画の農地)を評価単位とします。 |
④山林 | 1筆の山林を評価単位とします。 |
⑤原野 | 1筆の原野を評価単位とします。 |
⑥牧場 | ⑤原野と同様です。 |
⑦池沼 | ⑤原野と同様です。 |
⑧鉱泉地 | 原則として1筆の鉱泉地を評価単位とします。 |
⑨雑種地 | 利用の単位となっている一団の雑種地(同一の目的に供されている雑種地)を評価単位とします。 |
宅地の基本的な評価方法
ここからは、これら9つの地目の中で最も一般的で、実務でも取り扱うことが多い”宅地”に関する評価方法を解説していきます。
評価単位の判定
宅地は1画地の宅地毎に評価することになっていますので、1筆の宅地毎に評価するのではなく利用単位毎に評価しなければなりません。例えば、自己の居住(又は事業)の用に供している宅地が2筆であったとしても、2筆が自己の居住(又は事業)という一つの利用単位になっていますので、全体を1区画の宅地として評価します。
反対に、1筆の宅地でも自己の用に供している部分(自用地)と他人に貸している部分(貸宅地)がある場合は、利用の単位が異なりますので自用地と貸宅地は別々の宅地として評価します。更に貸宅地は借り手(借地人)が異なる毎に、また自己の宅地に貸家を建てて貸している部分(貸家建付地)がある場合は1棟の貸家毎に別々の宅地として評価することになっています。
評価方式の判定
宅地の評価方法は、その宅地の所在する場所に応じて次のように定められています。
①市街地的形態を形成する地域(路線価が付されている地域)にある宅地 | 路線価方式 |
②上記以外の宅地 | 倍率方式 |
「路線価方式」は、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、その宅地の形状や状況等を考慮して計算した金額によって評価する方式をいいます。
「倍率方式」は、固定資産税評価額に国税局長が一定の地域毎にその地域の実情に即するように定める倍率を乗じて計算した金額によって評価する方式をいいます。
路線価方式における具体的な評価方法(その1)
路線価方式による典型的なケースを幾つか示すと、具体的な評価方法は次のようになります。
一方のみが路線に接している宅地
宅地の形状や状況等を考慮し、路線価に直接地積を乗じて評価するのではなく、評価する宅地の奥行に応じて定められた”奥行価格補正率”を用いて評価します。
評価額 = 路線価×奥行価格補正率×地積
正面と側方に路線がある宅地
一路線だけでなく、正面と側方の二路線に接している宅地はそれだけ利用効率も高くなるため、更に”側方路線影響加算率”を用いて次のように評価します。尚、正面路線は、各路線価に奥行価格補正率を乗じて求めた価額が高い方の路線をいいます。
評価額 = (①+②)×地積
①正面路線価×奥行価格補正率
②側方路線価×奥行価格補正率×側方路線影響加算率
正面と裏面に路線がある宅地
側方路線と同様に、正面と裏面の二路線に接している宅地もそれだけ利用効率が高くなるため、更に”二方路線影響加算率”を用いて次のように評価します。同じく正面路線は、各路線価に奥行価格補正率を乗じて求めた価額が高い方の路線をいいます。
評価額 = (①+②)×地積
①正面路線価×奥行価格補正率
②裏面路線価×奥行価格補正率×二方路線影響加算率
まとめ
いかがでしたでしょうか。冒頭でも申し上げたように不動産、中でも土地は相続財産の中で最も評価が難しい財産とされています。
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引き続き後編では、この他に実際よくあるやや特殊なケースの評価方法や相続税を申告する際の書式の記載方法について解説していくことにします。