法定相続情報証明制度と自筆証書遺言書保管制度
所有者不明の土地の増加に端を発して『相続土地国庫帰属制度』(2023(令和5)年4月~)や『土地の相続登記の義務化』(2024(令和6)年4月~)が順次スタートしていますが、その他にも最近始まった相続に関する重要な制度があります。
今回は残りの『法定相続情報証明制度』と『自筆証書遺言書保管制度』の2つの制度について解説します。
法定相続情報証明制度
一つ目は2017(平成29)年5月から全国の登記所(法務局)でスタートした『法定相続情報証明制度』です。
制度の主旨・概要
相続に関する手続きを行ったことがある方は経験があると思いますが、『被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本』を提出する際に、窓口では必ず原本の提出が求められるため、複数機関で同時に手続きを行う場合はその機関の数だけ相続人が戸籍謄本等を収集し、各機関を持ち回る必要がありました。
☑ 税務署で相続税の申告書を提出する際
☑ 銀行で亡くなられた方(被相続人)の預金口座を解約・名義変更する際
☑ 法務局で被相続人の不動産の所有権移転登記を行う際 等
その手続きが相続人にとって負担になっていることを受けて、法務省・法務局が一回の手続きで従来の一連の戸籍謄本等に代わるものとして『法定相続情報一覧図の写し』を無償で交付し、各機関の相続手続きで共通的に使えるようにする制度が2017(平成29)年5月29日から始まりました。
これによって、相続人は被相続人の相続に関する各種手続きに掛ける手間と費用を大幅に削減できるようになりました。
手続きの流れ
この制度を利用する際の手続きは次の3ステップです。
①必要書類の収集
法務局で手続きする際に必要な以下の書類を収集します。
○被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本及び除籍謄本
○被相続人の住民票の除票
○相続人全員の戸籍謄抄本(被相続人の死亡日以降に作成されたもの)
○各相続人の住民票の写し(法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合には必要)
尚、この他にも窓口で申出人の氏名・住所を確認することができる公的書類(運転免許証の表裏両面のコピーやマイナンバーカードの表面のコピー等)が必要になります。
また、この制度を利用できる者(申出人となれる者)は被相続人の相続人ですが、委任により親族や弁護士・司法書士等の一定の資格者を代理人に指定することができます。その場合は、委任状及び申出人と代理人の親族関係が分かる戸籍謄本(親族の場合)や身分証明書の写し(資格者の場合)が必要になります。
②法定相続情報一覧図の作成
法務局の記載例を参考に被相続人及び戸籍の記載から判明する相続人を一覧にした図を作成します。一覧図はA4サイズ白紙に作成し、氏名・生年月日・続柄等を戸籍謄本の通りに記載します。
尚、相続放棄をした相続人がいる場合も一覧図には記載します。また、相続人の住所記載は任意ですが、その後の手続きの利便性を踏まえると記載しておいた方が良いでしょう。
③申出書の記入と登記所への申出
申出書に必要事項を記入し、ステップ1で用意した書類とステップ2で作成した一覧図と合わせて登記所へ提出すると、書類の不備や誤りがないことを確認した上で一覧図の写しが数日後に交付されます。
尚、申出書は各登記所窓口の他、法務局のホームページからもダウンロードすることができます。申出する登記所は、被相続人の本籍地や最後の住所地、あるいは申出人の住所地等を管轄する登記所のいずれかを選択できます。
また、申出や一覧図の写しの交付は郵送によることも可能です。更に、法定相続情報一覧図は登記所において5年間保存されますので、この間であれば当初の申出人は同じ登記所で再交付を申し出ることができます。
自筆証書遺言書保管制度
もう一つは、2020(令和2)年7月から同じく全国の法務局でスタートした『自筆証書遺言書保管制度』です。
制度の主旨・概要
遺言には、主に自筆証書遺言と公正証書遺言の2つがあることは以前の記事『遺言と遺産分割協議書』に解説した通りで、このうち自筆証書遺言は遺言者が独りでいつでも自由に作成することができ費用がかからないことがメリットですが、書式の不備等によって無効になるリスクがあることや保管が面倒な上、開封する際に家庭裁判所の検認が必要になることが大きなデメリットでした。
一方、公正証書遺言はそのようなデメリットはないものの第三者の証人が2人以上必要になることや公証人等への費用が相応にかかることが障壁になって思うように利用者が増えていないのが実情です。
そこで、両者の中間として法務省が2020(令和2)年7月10日から新たに始めたのが自筆証書遺言による遺言書を法務局で保管する制度です。
メリットとデメリット
この制度では、従来の自筆証書遺言と比較すると以下のようなメリットがあります。
☑ 遺言書を法務局で保管してもらえるため紛失や改ざん・破棄等の恐れがなくなる。
☑ 申請時に法務局で遺言書に形式的な不備がないかを確認してもらえるため形式不備で無効になるリスクが軽減される。
☑ 遺言者の死亡時には遺言が保管されている旨を相続人等に通知してもらえる。
☑ 開封時の家庭裁判所の検認が不要になる。
反対に、申請時に遺言者本人が法務局に出向く必要があることと若干の保管手数料(3,900円/件)がかかる点がデメリットです。
また、公正証書遺言と比較しても複数のメリットがあります。
☑ 自筆証書のため第三者の証人立会いが要らない。
☑ 申請時に保管手数料はかかるものの作成・保管に係る費用負担は極めて少ない。
☑ 遺言者の死亡時には遺言が保管されている旨を相続人等に通知してもらえる。
一方、自筆証書遺言ですので遺言書を自書しなければならない点が依然デメリットではあります。いずれにしてもこの制度によって、遺言者・相続人の双方にとって既存の遺言に関する懸念事項はかなり改善されています。
手続きの流れ
この制度を利用する際に遺言者が行う手続きは次の通りです。尚、手続きの詳細については、法務省のホームページで遺言書の記載例等も含めてガイドブックが公表されていますので下記をご覧下さい。
①遺言書を作成する
自筆証書遺言の制度であることに変わりはないため、まずは遺言書を自身で作成する必要があります。その際は、民法上の要件に加えて、この制度を利用する場合に守らなければならない以下のようなルールもありますので、注意が必要です。
☑ A4サイズに片面のみ記載すること
☑ 余白(上側5㎜・下側10㎜・左側20㎜・右側5㎜以上)を確保すること
☑ 各頁に頁番号を記載し、複数頁でも綴じ合わせないこと
②申請書を作成する
申請書を最寄りの法務局窓口又は法務省のホームページからダウンロードして入手し、記載例や注意事項を参考に必要事項を記入します。
③添付書類等を準備する
作成した遺言書と申請書の他に、以下の添付書類を収集・準備します。
○顔写真付きの官公署から発行された身分証明書
(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート等)
○本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し
○3,900円分の収入印紙(所定の手数料納付用紙に添付)
尚、遺言書が外国語により記載されている場合はこの他日本語による翻訳文も必要になります。
④法務局に予約・提出する
遺言書の保管申請は、遺言者の住所地か本籍地、あるいは不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局(遺言書保管所)で行うことができますので、最も都合の良い法務局を選んで電話又は専用ホームページで事前に予約した上で、遺言者本人が窓口で①~③の書類を提出します。
まとめ
これらの制度はいずれも相続に関連する手続きについて財産を遺す側と遺される側の双方の事務負担を少しでも軽減するために始められたものです。
どちらも利用者にはとても使い易く便利な制度になっていますので、必要と思われる方は利用されてみてはいかがでしょうか。