『相続についてのお尋ね』とは
身内の方が亡くなられた後に、しばらくして税務署から『相続についてのお尋ね』という文書が送られてくることがあります。個人で事業をされているなどしなければ、普段税務署から文書が届くことはほとんどありませんので驚かれるかもしれませんが、意味なく送られてくるわけではありませんので文書には適切かつ真摯に対応する必要があります。
そこで今回は、この『相続についてのお尋ね』の意味するところと送られてきた場合の対処方法について解説します。
『相続についてのお尋ね』とは
身内の方が亡くなられて6か月程経過した頃に、税務署から『相続についてのお尋ね』や『相続税の申告等についてのご案内』といった文書が相続税の申告書と一緒に送られてくることがあります。
お尋ねの意味と送られてくる理由
これらの文書は決して相続税の申告を強制しているものではなく、被相続人から相続等で取得した財産について、相続人が相続税を申告しなければならない(相続税の納税義務がある)可能性が高い場合に「申告しなくても大丈夫なのかどうか」を確認するために送られてくるものです。
市区町村役場に死亡届を提出すると、その事実が翌月末までに市区町村から最寄りの税務署に通知されることになっています。
また、税務署では生前に被相続人の所得税等の確定申告書(会社員なら給与所得・退職所得の源泉徴収票)はもちろんのこと、被相続人が亡くなるまでの間に得た所得や財産の状況に関する情報について、以下のような情報を蓄積し概ね把握しています。
○銀行からの過去10年間の取引履歴の照会結果や海外送金に関する調書
○証券会社等からの株式売買取引や配当金支払に関する調書
○保険会社等からの保険金・年金支払や契約内容変更に関する調書
○法務局からの不動産に関する登記情報の変更通知 等
上記から推察して、相続税の申告が必要になる可能性が高いと思われる相続人に対して、確認の意味で相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)を迎える前に案内しているわけです。
内容・構成
内容は以下のような構成で、指示に従って記入していくと相続税の申告書の提出要否が簡易的に判定されるようになっていますので、一般の方でも比較的簡単に作成することができます。
○被相続人及び相続人に関する項目
○被相続人の財産・債務等に関する項目
○相続税の申告書の提出要否に関する項目
○回答者に関する項目
各項目の記載方法
項目毎の具体的な内容と記載の要領は概ね次の通りです。
被相続人及び相続人に関する項目
亡くなられた方(被相続人)について、住所・氏名(フリガナ)・生年月日・亡くなられた日と亡くなる直前の職業・勤め先を記入します。また、相続人については、住所・氏名(フリガナ)・被相続人との続柄と相続人の数を記入します。
被相続人の財産・債務等に関する項目
①不動産
被相続人が所有していた不動産(土地・建物)があれば、その種類・所在地・面積・路線価等・倍率及び概算の評価額を記入します。先代(被相続人の父母・祖父母等)名義のものがあればそれも含めて記入します。
土地は、路線価が定められている地域に所在するものは路線価等の欄に路線価を記入し、面積を乗じたものを評価額の欄に記入します。
また、路線価が定められていない地域に所在するものは路線価の欄に固定資産税評価額を記入し、倍率を乗じたものを評価額の欄に記入します。
建物は、路線価等の欄に固定資産税評価額を記入し、倍率は1.0倍として評価額の欄に同額を記入します。
尚、路線価・倍率は国税庁のホームページで直近のものが確認できますし、固定資産税評価額は所在地の自治体が発行する固定資産税納税通知書(課税明細書)又は固定資産評価証明書等で確認できます。
②有価証券
被相続人が所有していた株式、公社債、投資信託等があれば、証券会社等が発行する被相続人が亡くなられた日現在の残高証明書等を基に、その銘柄・数量及び金額を記入します。
③現金・預貯金
被相続人が所有していた預貯金について、銀行等が発行する被相続人が亡くなられた日現在の残高証明書等を基に、預入先(金融機関名・支店名)及び金額を記入します。また、亡くなられた日現在で被相続人の現金があれば、手許現金として金額を記入します。
④生命保険金・退職手当金
被相続人が亡くなったことを支払事由として受け取った生命保険金や損害保険金、退職手当金があれば、その保険会社名又は支払会社名及び受け取った金額を記入します。
⑤相続時精算課税財産
相続人の中に被相続人を特定贈与者とする相続時精算課税を選択していた者がいてその適用を受けた贈与財産がある場合は、その受贈者の氏名・財産の種類及び贈与を受けた金額を記入します。
⑥生前贈与財産
被相続人が亡くなる前3年以内に被相続人から上記⑤以外の財産の贈与を受けた者がいる場合は、その受贈者の氏名・財産の種類及び贈与を受けた金額を記入します。なお、その受贈者が被相続人から相続等によって財産を取得していない場合には記入する必要はありません。
⑦債務・葬式費用
被相続人に借入金や未払税金等の債務がある場合は、その債権者の住所・氏名及び金額を記入します。また、相続人が支払った葬式費用があればその概算金額を記入します。
相続税の申告書の提出要否に関する項目
前項までに記入した各項目の人数・金額を指示に従って転記し、課税遺産総額(M欄)を計算します。その結果として以下のように簡易的に判定されて必要事項の記入は終了です。
課税遺産総額(M欄)が黒字である場合 | 相続税の申告が必要 |
課税遺産総額(M欄)が赤字である場合 | 相続税の申告は不要 |
尚、注書きにも記載がありますが、この判定では生命保険金や退職手当金に係る一定の非課税金額が考慮されていませんので、課税遺産総額(M欄)の黒字が少額の場合は申告要否について更に精査してみる余地があります。
回答に際しての注意点・留意事項
回答の要否について
判定の結果、”相続税の申告は不要”となった場合であっても遅滞なくその顛末を税務署に回答しておきましょう。
「不要と判定されたから回答もしなくていいだろう」と勝手に判断して回答を怠ると、税務署としては相続人が判定を行った上で申告は不要と判断したのか、それとも相続人は何も対応していないのかが分かりません。
税務署の指示に従ってキチンと確認・判定した事実を伝えておくことが大切です。
反対に、”相続税の申告が必要”となった場合でも、既に自身もしくは税理士に依頼して申告の準備を進めていて、期限内に申告書を提出できる見込みであれば回答する必要はありません。あくまでお尋ねは相続税の申告を適時・適切に行うことを促すためのものですから、申告書がキチンと提出されるのであれば回答がなくても何ら問題はありません。
回答しなかった、または虚偽の回答した場合のペナルティについて
このお尋ねは回答が義務付けられているものではありませんので、もし回答しなかったとしても直ちに何かペナルティが課されるということはありません。それは意図的か否かに関わらず虚偽の回答した場合も同じです。
しかし、本来相続税の申告が必要であったにもかかわらず、期限内に申告書を提出せずに後日税務調査が行われて追徴課税を受けるようなことになれば、状況によっては本税や延滞税の他にも無申告加算税や重加算税が科される恐れがあります。
まとめ
冒頭でも述べた通り、税務署は被相続人の財産をある程度把握した上で相続税の申告が必要になる可能性が高いと思われる相続人に対してお尋ねを送っていますので、何も対応しないことや虚偽の回答をすることはあまり賢明とは言えません。
このように、被相続人が亡くなられた後に税務署から『相続についてのお尋ね』が送られてきたら、相続税の申告が必要である可能性が高いものと考えて遅滞なく回答するか、期限内に申告を行うか、いずれかの方法で適切に対処するようにしましょう。