小規模宅地等の特例 ~前編~
相続税の申告において、『配偶者の税額軽減』と並んで適用できるなら必ず受けたい特例の一つが『小規模宅地等の特例』です。
しかし、この特例の適用要件は複雑で、誤って適用したり、減額計算を間違えてしまうと相続税額に与える影響も大きくなるため、適用に当たっては正しい知識に基づいて適切に評価・申告することが不可欠です。
そこで今回は、『小規模宅地等の特例』について2回に分けて詳しく解説します。
小規模宅地等の特例とは
制度の主旨・概要
亡くなられた方(被相続人)が生前に事業の用又は居住の用に供されていた宅地等のうち一定の部分については、相続等によって取得する者にとっても生活を維持するために必要なものです。
仮に、被相続人と生前一緒に暮らしていた親族が被相続人の自宅をせっかく相続しても、相続税を支払うためにその自宅を売却・処分しなければならなくなったら元も子もありません。
そこで、個人が相続又は遺贈により取得した財産のうち、被相続人等の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等のうち一定の条件を満たすものがある場合、その宅地等のうち一定面積までの部分については相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定割合を減額することとされており、これを『小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例』(略して『小規模宅地等の特例』)といいます。
適用対象者と対象となる宅地等
この特例は誰でも・どんな宅地でも適用されるというものではなく、適用される対象者や対象宅地は限られています。
まず、この特例の適用を受けることができる者は相続又は遺贈により特例の対象となる宅地等を取得した個人です。従って、この特例は必ずしも相続人だけに限られたものではなく、相続人以外の者が遺贈によって取得した宅地等についても適用を受けることができます。
そして、この特例の対象となる宅地等(特例対象宅地等)は、次のいずれかに該当するものです。
- 相続開始の直前において、被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で一定の建物又は構築物の敷地の用に供されているもの
- 相続開始の直前において、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で一定の建物又は構築物の敷地の用に供されているもの
居住の用ではない別荘の敷地に供されている宅地等や、建物又は構築物の敷地の用に供されていない空き地(例えば、青空駐車場等)には適用できません。
ここで「被相続人等」とは被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族のこといいます。「親族」は6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族をいい、「生計を一にする」とは必ずしも同一の家屋で起居している場合だけに限らず、一緒に生活していなくとも常に生活費や療養費等を送金しているような場合なども含まれます。
特例対象宅地等の種類と適用要件
更に特例対象宅地等は次の4種類に区分され、各々適用要件が細かく定められています。
①特定事業用宅地等
「特定事業用宅地等」は、相続開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じて各々に掲げる要件のすべてに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます。
被相続人の事業に利用されていた宅地の場合
①その親族がその宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続開始時から相続税の申告期限までの間に引き継ぎ、かつ申告期限までその事業を営んでいる(事業の用に供している)こと
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
被相続人と生計を一にしていた親族の事業に利用されていた宅地の場合
①生計を一にしていた親族が相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を自己の事業の用に供していること
②その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
ここでの「事業」は不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及びそれらに準じる事業(以下、「貸付事業」といいます)を除くことに注意が必要です。
また、2019(平成31)年の税制改正により一定規模以上の事業である場合を除き、相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地等は対象外となりました。
②特定同族会社事業用宅地等
「特定同族会社事業用宅地等」は、相続開始の直前から相続税の申告期限まで一定の法人の事業用に供されていた宅地等で、次の要件のすべてに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます。
- その親族が相続税の申告期限においてその法人の役員であること
- その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
ここで「一定の法人」とは相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数又は出資の総額の50%超を有している場合におけるその法人のことをいいます。先と同様、対象となる事業には貸付事業を除きます。
③特定居住用宅地等
「特定居住用宅地等」は、相続開始の直前において被相続人等の居住用として利用していた宅地を指し、被相続人の配偶者又は次の区分に応じて各々に掲げる要件のすべてに該当する被相続人の親族(配偶者を除く)が相続又は遺贈により取得したものをいいます。
1.被相続人の居住に利用されていた宅地:①同居家族での相続
①その親族が相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住していること
②その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
2.被相続人の居住に利用されていた場合:②別居家族での相続
①その親族が居住制限納税義務者又は非居住制限納税義務者のうち日本国籍を有しない者ではないこと
②被相続人に配偶者がいないこと
③相続開始直前に被相続人と同居していた法定相続人がいないこと
④その親族が相続開始前3年以内に日本国内にある当該親族、当該親族の配偶者、当該親族の3親等内の親族又は当該親族と特別の関係がある一定の法人が有する家屋に居住したことがないこと
⑤相続開始時にその親族が居住している家屋を相続開始前のいずれの時においても所有していたことがないこと
⑥その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
3.被相続人と生計を一にしていた親族の居住に利用していた場合
①生計を一にしていた親族が相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を自己の居住の用に供していること
②その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
尚、被相続人の居住の用には、養護老人ホームへの入所など被相続人が居住の用に供することができない一定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合における居住の用に供されなくなる直前の被相続人の居住の用が含まれます。
また、居住の用に供されていた宅地等が2以上ある場合は、被相続人等が主として居住の用に供していた一の宅地等に限ります。
④貸付事業用宅地等
「貸付事業用宅地等」は、相続開始の直前において被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じて各々に掲げる要件のすべてに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます。
被相続人の貸付事業の用に利用されていた宅地の場合
①その親族がその宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続開始時から相続税の申告期限までの間に引き継ぎ、かつ申告期限までその貸付事業の用に供していること
②その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
被相続人と生計を一にしていた親族が営む貸付事業の宅地の場合
①生計を一にしていた親族が相続開始前から相続税の申告期限まで引き続きその宅地等を自己の貸付事業の用に供していること
②その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること
尚、2018(平成30)年の税制改正により、相続開始前に3年を超えて貸付事業(準事業を除く)を行っていた場合を除いて相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は対象外となりました。
まとめ
ここまで『小規模宅地等の特例』制度の趣旨や概要、対象となる宅地について解説させていただきました。
引き続き後編では、特例対象宅地等の限度面積や減額計算、相続税における申告方法や添付書類等について解説していきますので是非ご覧ください。