相続税を抑制・軽減する方法

個人に相続税が課税されるのは一生に一度あるかどうかですので、課税される場合の税額も高額になることが少なくありません。

悪意のある脱税は決して許されませんが、ご家族が亡くなられた後で遺族にとっては何かとお金も必要になりますので、法の許す範囲でできるだけ相続税の負担が少なくなるようにしたいと考えるのは当然のことです。

そこで今回は、相続税を少しでも抑制、あるいは軽減するために合法的に考え得る方法について解説します。

目次

相続税はどのように計算されているか?

以前の記事『相続税の具体的な計算方法』でも解説しましたが、相続税の計算は3つのステップで行われます。

STEP
各相続人等の課税価格の計算

相続人(又は受遺者)が取得した財産の課税価格を各人毎に計算します。

STEP
課税遺産総額と相続税の総額の計算

各人毎に計算した課税価格を合算し、一定金額を控除したうえで、相続人等の全員が負担する相続税の総額を計算します。 

STEP
各人毎の納付税額の計算

相続税の総額を各人に按分して各人毎の納付税額(又は還付税額)を計算します。

ここで重要なのは、ステップ2~ステップ3では相続される方(相続人等)の亡くなられた方(被相続人)との相続関係や財産の取得状況等に応じてほぼ自動的に計算されて税額が決まってしまうということです。

そのため、ステップ1の課税価格の計算において、

① プラスの財産を如何に減らすか

② マイナスの財産や控除できる額を如何に増やすか

ということが、相続税を抑制、あるいは軽減するために考え得る限られた方策になってきます。課税価格は、相続又は遺贈によって財産を取得した人の相続税の課税対象となる金額をいい、次の算式で計算されます(マイナスになる場合はゼロ)。

課税価格の計算式

課税価格 = 相続または遺贈により取得した財産の価額(本来の相続財産)+みなし相続財産-非課税財産+相続時精算課税財産-債務控除+生前贈与財産 

つまり、以下の考え方となります。

① 本来の相続財産やみなし相続財産、相続時精算課税財産、生前贈与財産の金額を如何に減らすか。

② 非課税財産や債務控除の金額を如何に増やすか。

財産を減らす方策

まず、相続財産の金額を減らす(抑える)方法として代表的なものには次のようなものがあります。

相続人等への生前贈与

最もオーソドックスな方法は、贈与税の「暦年課税制度」の非課税枠(110万円以内)を活用して生前に相続人(子や孫等)に預貯金等を贈与することです
1回の金額は少なくても数年間、あるいは複数人に贈与を続ければ1千万円単位で財産を移転(減少)させることができます。

ただこの方法で注意しておきたいのは、贈与の時期によっては相続税の生前贈与財産の対象となって節税効果がなくなってしまうことです。

2023(令和5)年中なら相続開始前3年以内の贈与がその対象ですが、2024(令和6)年以降は一定の経過措置があるものの、原則、相続開始前7年以内の贈与が対象になります。

その一方、2024(令和6)年からは「相続時精算課税制度」にも基礎控除枠(110万円)が新たに設けられますので、贈与の時期やタイミングに応じて「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」を上手く使い分けて選択する必要があります。

尚、将来相続によって財産を取得しない孫や子の配偶者等に対する贈与は、それがいつであっても相続税の生前贈与加算の対象にはなりませんので、従来通り「暦年課税制度」の非課税枠を活用する方法が有効です。

生命保険金等の非課税措置を活用

次によく知られている方法としては、自己を被保険者/相続人(配偶者や子等)を保険金受取人とする生命保険に加入・契約することです。

死亡保険金に見合う保険料を生前に支払うことで財産を圧縮(減少)することができますし、万一亡くなって死亡保険金が支払われても生命保険金等の非課税措置(最大500万円×法定相続人の数)を活用すればその分は相続税を課税されずに済みます。

上記算式で言い換えれば、本来の相続財産から保険料相当が減少し、支払われた生命保険金はみなし相続財産として加算される一方で、生命保険金等が非課税財産となって相殺されるため、生前に支払う保険料相当に節税効果が生じることになります。

不動産の評価特例を有効に活用

不動産の中でも居住の用に供されている都市部の宅地は高額であることが多く、それを相続する相続人(配偶者や子等)にとっても生活していく上で必要不可欠なものになる可能性が高いことから、相続税の課税価格を計算する上で様々な評価の特例が用意されています。

その代表的なものが「小規模宅地等の特例」で、一定の要件を満たせば評価額を最大80%減額することができます。また、マンション敷地など周辺の宅地に比べて「地積規模の大きな宅地」については、一定の要件を満たせば評価額を少なくとも20%以上減額することができます。

これら不動産の評価の特例を有効に活用することで、本来の相続財産である土地の価額を相当程度減少させることができます。

金融資産から不動産への組み替え

不動産は、取引市場を通じた時価が明らかな預貯金・有価証券等の金融資産に比べて時価を一つに定めることが困難なことから、相続税の課税価格の計算上、通常の取引価格より低い価額で評価されるようになっています。すなわち、土地を評価する際の”路線価”は時価の概ね80%、建物を評価する際の”固定資産税評価額”は時価の概ね70%に設定されています。

また、土地・建物を自己の用に供するのではなく他人に貸し付けている場合(貸宅地・貸家等)は、そこから借地権(30%~90%)や借家権(30%)に相当する金額が差し引かれるため更に減額されることになります。

これを利用して、金融資産に将来の生活資金を差し引いてなお余裕がある場合は、それを賃貸不動産に組み替える(投資する)ことで本来の相続財産の価額を圧縮(減少)することができます。

債務や控除額を増やす方策

次に、相続債務や課税価格から控除できる金額を増やす方法としては次のようなものがあります。

不動産取得のための資金借入

先の金融資産から不動産への組み替えで、全て自己資金で賄えれば良いですが、そうでなければ資金の一部を銀行等から借入れて不動産を取得することも考えられます。その場合、その後亡くなった時に借入金が残っていれば被相続人の債務として相続財産から控除することができますので、上記算式でいうところの債務控除の額を増やすことになります。

しかし、この方法で注意しておかなければならないのは、明らかに相続税を不当に減額する(例えば、借入金を債務控除することで相続税額をゼロにする)ために行われてはならないということです。

その点は最近の最高裁判決でも示されたところですので、行き過ぎた節税にならないよう注意する必要があります。

養子縁組による法定相続人の追加

相続税の計算におけるステップ2での方法になりますが、実子以外にも孫等を養子縁組することにより法定相続人の数を増やして遺産に係る基礎控除額を増額する方法もあります。

相続税の基礎控除額は”3,000万円+600万円×法定相続人の数”で計算しますので、法定相続人の数が増えれば当然基礎控除額が増え、課税対象となる課税遺産総額が減少して相続税額も少なくなります。

配偶者の税額軽減(配偶者控除)の活用

最後はステップ3での方法として、税額控除の一つである「配偶者の税額軽減(配偶者控除)」を有効に活用する方法です。

以前の記事『相続税の配偶者控除』でも解説している通り、この特例を活用する場合は必ず一次相続だけでなく二次相続まで含めて相続税額を試算してトータルの税負担が少なくなるように財産配分を考えることが大切ですが、一次相続における配偶者の相続税額を大幅に軽減できるというメリットは活用したいところです。 

まとめ

ここまで相続税を抑制・軽減するために考え得る方法を幾つか紹介しましたが、どの方法や組み合わせが最適かはその人の財産構成や金額、相続関係などによっても異なります。

しかし、これらの方法で相続が開始してからできるものはほとんどなく、生前のうちから考えて行っておく必要があるという点では共通しています。

ですので、相続税が幾ら位かかりそうか、あるいは生前対策として何が最適かといったことについて、できる限り早めにご家族とも相談しながら準備を進めておくことがとても大切です。

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