遺言と遺産分割協議書

「大した財産はないから遺言なんて自分には関係ない」と思われている方は多いでしょうし、実際に公証役場に預けられている遺言の数も現時点ではそれほど多くありません。しかし、亡くなられた方(被相続人)に遺言が無ければ、その代わりに遺された相続人が遺産分割協議を行って協議書として書面に纏める必要があります。

いずれにしても生前、もしくは相続開始後にこれら文書を誰かが作成することになるわけですが、その際に各々注意しておきたい点などがありますので、今回は遺言と遺産分割協議書について解説します。

目次

遺産の分け方・方法

被相続人の遺産を相続人等で分ける方法には、”遺言による方法”と”遺産分割協議による方法”の2通りがあります。

遺言による方法

遺言は、遺産分けにおいて自己(被相続人)の意思を反映することができる唯一の方法で民法には3つの方法が定められていますが、実際は次の2つが殆どで各々にメリット・デメリットがあります。

①自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言者が遺産分けの具体的な内容全文と日付及び氏名を自筆で記入(自書)し、押印(通常は実印)したものです。加除訂正はその箇所を明示して変更した旨を付記・署名するとともに、変更箇所に押印する必要があります。

尚、法改正によって2019(平成31)年1月から遺産の全部又は一部を財産目録として添付する場合、目録については自書しなくてもよいことになりました(但し、目録各頁に署名・押印は必要)。また、2020(令和2)年7月からは自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度も始まりました。

遺言者が独りでいつでも自由に作成することができ、費用がかからないことが最大のメリットですが、書式の不備等によって遺言が無効となるリスクや自書の煩わしさがあることが依然としてデメリットです。

②公正証書遺言

公正証書遺言は、2人以上の証人立会いの下で遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授し、公証人がそれを筆記したものを遺言者及び証人に読み聞かせて、両者が正確であることを承認した後に各自署名・押印、更に公証人が法律に定める方式に従って作成したものである旨を付記して署名・押印したものです。

遺言に形式的な不備や誤りがなく、公証人が保管するため紛失や偽造の心配がないことがメリットですが、第三者の証人の立会いが必要になることや公証人等への費用がかかることがデメリットです。

以前は開封する際に家庭裁判所の検認が不要になることが公正証書の最大のメリットでしたが、法改正により自筆証書遺言でも法務局の保管制度を利用している場合は検認が不要となったため、その点での優位性は無くなりました。

遺産分割協議による方法

被相続人に遺言がなく、相続人が2人以上いる場合、被相続人の遺産分けは相続人間の分割協議によって決めなければなりません。

そして協議の結果、決定した内容は遺産分割協議書として書面に纏める必要があります。

協議書を作成することが法律で義務付けられているわけではありませんが、遺言書がない場合で相続税の申告や相続財産の名義変更など相続関連の手続きを行う際は、遺言書の代わりに必ず協議書の提出が求められますので、実質的には作成せざるを得ないものと考えた方が良いでしょう。

遺産分割協議書の記載上・作成上の注意点

協議書に決められた書式は特にありませんが、遺言や財産目録と同様に記載上、あるいは作成上注意しておかなければならない点が幾つかあります。

相続財産・債務を漏れなく正確に記載すること

まず冒頭に、被相続人の氏名・死亡年月日・本籍地等を記載して誰の遺産に関するものなのかを明確にしておきます。

その上で、財産目録等に従って被相続人のプラスの財産はもちろんのこと、マイナスの財産(債務)も含めて誰が何をどのように取得(又は負担)するのかを漏れなく記載します。その際は、以前の記事『相続財産の調べ方と財産目録』でも解説しましたが、個々の財産が確実に特定できるよう正確かつ具体的に記載しましょう。

尚、協議書は財産目録とは目的が異なり”誰が何をどのように取得するのか”が明確になっていることが重要ですので、必ずしも財産の価額を記載する必要はありません。

協議後に発覚した財産・債務の取扱いについても記載しておくこと

協議書を作成した後に、新たに被相続人の財産や債務の存在が明らかになった場合は、改めて分割協議を行って協議書を作り直さなければなりません。

そのような手間を生じさせないようにするため、協議書に記載のない財産・債務が新たに発覚した場合の取扱い(例えば、「財産・債務が新たに発覚した場合は相続人○○ ○○が相続する」等)を予め協議書に盛り込んでおくと良いでしょう。

相続人全員の署名と実印による押印が必要

相続人が一人でも欠けた遺産分割協議は無効となることから、協議書の冒頭に「相続人全員で協議した」旨を記載するとともに、相続人全員の署名と実印による押印が必要になります。協議書が複数枚にわたる場合は、綴じた書面の頁間又は袋綴じに相続人全員の割印・契印が必要です。

尚、相続財産の名義変更等の手続きを行う際は遺産分割協議書の原本の提出が求められますので、協議書は相続人全員分を作成して各相続人が1通ずつ保管するようにしましょう。

遺産分けで気を付けたい遺留分

遺留分とは

遺言によったとしても、遺産分割協議によったとしても、遺産をどのように分けるかは基本的に本人又は相続人等の自由です。しかし、その自由を無制限に認めると相続人間でのトラブルに発展してしまう恐れがあります。

そこで、我が国では一定範囲の相続人に一定割合(最低限)の相続財産の承継を保障する『遺留分制度』が設けられています。この一定範囲の相続人のことを遺留分権者といい、一定割合のことを遺留分割合といいます。

遺留分権者と遺留分割合

遺留分権者は被相続人の配偶者直系尊属に限られ、兄弟姉妹に遺留分はありません。また、遺留分割合は民法で次のように定められています。

①直系尊属のみが相続人である場合    3分の1
②その他の場合 2分の1
民法で定められた遺留分割合

相続人が複数いる場合は、上記割合をその法定相続分で按分します。

例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、配偶者の遺留分は1/4(1/2×1/2)、子の遺留分は1/8(1/2×1/2×1/2)ずつということになります。

遺言等では遺留分侵害に要注意

この制度があることで、遺言や遺産分割協議によって仮に遺留分に反する遺産分けが行われたとしてもそれだけで直ちに無効になるわけではありませんが、遺留分を侵害された者には他の相続人等に対して侵害された部分の取戻しを請求する権利(遺留分減殺請求権)が生じます。

つまり、遺留分を侵害された者はこの遺留分減殺請求権を期限(相続開始と遺留分侵害の事実を知った時から1年間)内に行使すれば、遺留分割合に応じた遺産を取り戻すことができるということです。

従って、遺産をどのように分けるかは原則自由なのですが、遺言等によって遺産分けを決める際は相続人の遺留分を侵害することがないよう注意・配慮しておくことが望まれます。

まとめ

生前に作成する遺言も相続開始後に作成する遺産分割協議書もいずれも遺産分けに関するもので、多かれ少なかれ相続人間の利害に関わる重要な文書になりますので間違いや誤りのないよう正しく作成しなければなりません。

「なんとなく難しそうだから専門家にお願いしようかな・・・」と考えられる方も多いですが、エピログ相続なら遺産分割協議書の作成についても丁寧なガイドで専門家に依頼するのと同様に正確な書類作成が可能です。まずは会員登録してみて、使い心地を試してみてはいかがでしょうか。

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