相続税の申告が必要か不要かの判定
亡くなられた方(被相続人)から相続等によって財産を取得した際に、その方(相続人等)にとっては相続税の申告が必要になるのかどうかが最も気になるところではないでしょうか。
実際には被相続人の財産・債務を精査し、国税庁が定める通達に従って評価した上で相続税額を計算してみる必要がありますが、一般の方でも概算で相続税の申告要否をシンプルに判定することは可能です。今回はその方法について解説します。
相続税の大まかな計算の流れ
相続税の詳しい計算方法については、『相続税の具体的な計算方法』でも解説していますが、その大まかな流れを示すと次のようになります。
まず各相続人等の 「課税価格」を計算します。
次に各相続人等の「課税価格」の合計額から「基礎控除額」を差し引いて「課税遺産総額」を算出します。
そして「課税遺産総額」を法定相続分で一旦按分し、それに税率を掛けて各相続人等の相続税額を計算したものを合算します(相続税の総額)。
最後に「相続税の総額」を各相続人等の実際の財産取得割合に応じて按分し、各人毎の「税額控除」を差し引いて納付税額(又は還付税額)を算出します。
②の段階で「課税遺産総額」がゼロ又はマイナスであれば、まず相続税は生じないことになります。
ここで「課税価格」は、相続又は遺贈によって財産を取得した人の相続税の課税対象となる金額をいい、次の手順・算式で計算されたもので、マイナスになる場合はゼロとします。
課税価格 = 本来の相続財産+みなし相続財産-非課税財産+相続時精算課税財産-債務控除+生前贈与財産
相続税は相続又は遺贈によって取得したすべての財産について課税され、その財産はおよそ金銭に見積もることができる経済的価値のあるものすべてで、有形・無形は問わないとされています。
一般的には、被相続人が生前保有していた預貯金や有価証券等の金融資産、土地や家屋等の不動産といった「本来の相続財産」の他に、以前の記事『生命保険にかかる税金』で解説した生命保険金等や生命保険契約に関する権利といった「みなし相続財産」があります。
一方、財産の中には墓所や霊廟、あるいは相続により取得したとみなされる生命保険金等や退職手当金等の一部など、政策的な観点から課税することが適当ではないものもあり、これらは限定的に「非課税財産」として除外(又は控除)されます。
また、被相続人にプラスの財産だけではなくマイナスの債務がある場合や、相続開始後に通常は相続人等が負担することになる葬式費用で債務とともに被相続人の財産から控除(債務控除)することが適当なものもあります。
この他に、被相続人からの生前贈与で相続時に精算することを選択したもの(相続時精算課税財産)や、被相続人から暦年課税で相続開始前3年内に受けた贈与(生前贈与財産)については制度的に相続税の課税対象として加算します。
尚、現在、相続財産に加算する生前贈与財産は相続開始前3年とされていますが、2023(令和5)年の税制改正によって、2024(令和6)年1月1日以後は相続開始前7年に延長されました。
相続税の遺産に係る基礎控除額
遺産に係る基礎控除額
所得税や贈与税など他の税目と同様、相続税においても課税対象とされるのは課税価格の合計額から次の算式で計算した一定の金額(基礎控除額)を控除した残りの部分になります。
遺産に係る基礎控除額 = 3,000万円+600万円×法定相続人の数
ご承知の通り、2015(平成27)年の税制改正によってこの基礎控除額は、それ以前のもの(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)に比べて大幅に縮減されました。
法定相続人の数
法定相続人は、以前の記事『相続人の相続順位と法定相続分』で解説した相続人のことですが、この計算で用いる「法定相続人」とは、相続の放棄があった場合にはその放棄がなかったものとした場合における相続人のことをいいます。
従って、法定相続人の中に相続放棄者がいる場合は、その者も含めた数で基礎控除額を計算することになります。また、被相続人に養子がある場合には法定相続人の数に制限が設けられており、法定相続人の数に含めることができる養子の数は次の通りです。
被相続人に実子がある場合 | 1人 |
【届出人被相続人に実子がない場合 | 2人まで |
これは、際限なく養子を遺産に係る基礎控除額の計算に算入できるとすると、被相続人が生前に孫と養子縁組を行う等の方法で故意に相続人の数を増やして相続税の課税を回避する恐れがあることから、そのような行為を防ぐために法定相続人の数に算入できる養子の数が制限されています。
申告要否の判定と注意点
申告要否の判定方法
相続税の申告は、次の2つの要件をいずれも満たした場合に必要になります。
①相続税の課税価格の合計額が遺産に係る基礎控除額を超えること
②納付すべき相続税額があること(※一部例外あり)
言い換えると以下のような判断となります。
課税遺産総額がプラス (課税価格の合計額>基礎控除額) | 申告必要 |
課税遺産総額がゼロ又はマイナス (課税価格の合計額≦基礎控除額) | 申告不要 |
また、課税遺産総額がプラスであっても税額控除をした結果、納付すべき相続税額がゼロになる場合には原則申告する必要がありません(申告不要)。
もっとも、簡単に申告要否の判定を行いたい場合には、国税庁のホームページで公表されている『相続税の申告要否判定コーナー』を活用するという方法もあります。
画面に従って法定相続人の数や相続財産の金額等を入力していくと申告要否の判定結果が表示されるようになっていて、入力内容や判定結果を『申告要否検討表』として印刷したり、入力途中でデータを保存することもできます。
但し、このコーナーでは先に解説したような相続人等毎に課税価格を計算して合計額を算出するのではなく、被相続人の相続財産や債務及び葬式費用等の合計額から簡便的に課税遺産総額が計算されますので、判定結果は必ずしも正確とは限りません。相続人等毎に計算した課税価格の合計額から課税遺産総額を計算すると申告が必要なところ、申告が不要と判定される場合もあります。
ですので利用する際は、あくまでも概算金額から簡便的に判定された結果に過ぎないということを十分に理解しておいて下さい。
相続税額がゼロでも申告が必要な場合がある!
更に、申告要否の判定で何より気を付けておかなければならないのは、正規の方法で相続税の計算を行った結果、仮に相続税額がゼロになったとしても申告書を提出しなければならない場合があるということです。
『配偶者の税額軽減(配偶者控除)』や『小規模宅地等の特例』といった相続税の各種特例は”相続税の申告書を提出すること”がその適用要件になっているため、これら特例の適用を受ける場合は相続税額がゼロになったとしても申告する必要がありますので、その点は十分注意をして下さい。
まとめ
ここまで相続税の申告要否の判定について解説しましたが、最後に紹介した国税庁のホームページを利用すれば一般の方でも簡便的に申告要否を判定することはできます。
ただその際は、先の注意点に加えて相続等により取得した財産が漏れなくすべて含まれていることが大事で、そのためには相続財産に含めるべきものかどうかを正しく判断した上で利用しなければなりません。
また、仮に相続税額がゼロであったとしても特例の適用を受けるためには申告しなければならない場合がありますので、ご自身で安易に判断されるのではなく、まずはエピログ相続を有効に活用して確認してみましょう。