小規模宅地等の特例 ~後編~

前回に続き、『小規模宅地等の特例』における特例対象宅地等の限度面積や減額計算、特例を適用する際の注意点や相続税における申告方法・添付書類等について解説します。

目次

限度面積と減額計算

特例対象宅地等に該当する宅地等のうち、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、減額できるのは一定の面積(限度面積)までで、減額割合も宅地等の種類によって異なります。

特例対象宅地等の限度面積と減額割合

宅地の種類限度面積減額割合
特定事業用宅地等400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等400㎡ 80%
特定居住用宅地等330㎡ 80%
貸付事業用宅地等200㎡ 50%
特例対象宅地等の限度面積と減額割合

 限度面積とは、宅地等の種類ごとに特例が適用できる面積の上限のことを指します。この面積を超える部分については80%又は50%の減額が適用されません。しかし、限度面積を超える宅地等の場合でも全体が減額できないわけではありません(全体のうち限度面積までは特例が適用できます)。

複数種類の宅地等がある場合の減額計算

一つの種類だけでなく複数の種類の宅地等がある場合は、限度面積の判定方法が異なります。以下のいずれかの条件に該当するかに応じて限度面積を判定します。

①複数種類の宅地に貸付事業用宅地等が含まれない場合

貸付事業用宅地等がない場合は特定事業用宅地等(特定同族会社も含む)で400㎡、特定居住用宅地等で330㎡の合わせて最大730㎡まで80%減額することが可能です。

計算式

特定事業用宅地等+特定同族会社事業用宅地等      ≦ 400㎡ かつ

特定居住用宅地等                                                  ≦ 330㎡

②複数種類の宅地に貸付事業用宅地等が含まれる場合

貸付事業用宅地等がある場合は限度面積200㎡の按分計算になるため、減額割合との組み合わせでどの宅地等を優先的に選択し、特例を適用するかが重要になってきます。

計算式

(特定事業用宅地等+特定同族会社事業用宅地等)×200/400 +

特定居住用宅地等×200/330 + 貸付事業用宅地等 ≦ 200㎡

実際には宅地等の組み合わせで幾つかのパターンを計算・比較することになりますが、簡便に計算する方法として各宅地等の限度面積と減額割合を掛け合わせた係数を用いて㎡単価で比較することも可能です。

【参考】相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)

特例を適用する際の注意点

この特例が適用できるのは前編に示したような要件を満たす宅地等に限られますが、その要件の充足に関して幾つか注意しておきたい点があります。

そもそも特例対象宅地等なのか

相続時精算課税制度を利用して贈与により取得した宅地等は、相続又は遺贈によって取得した財産に該当しないため、この特例の適用を受けることはできません。

また、相続税の申告期限までに分割されていない宅地等についても、取得した個人が特定されていないため、原則、適用を受けることはできません。

従って、生前に相続時精算課税制度を選択する際、あるいは相続開始後に遺産分割協議を行っている時に、選択又は協議の結果によってこの特例が適用できなくなる可能性があることを十分に理解しておく必要があります。

形式だけでなく実質的にも要件を満たしているか

特定居住用宅地等の要件には、被相続人の配偶者を除いて相続開始時(あるいは相続開始前)から相続税の申告期限まで宅地等を有していること(保有継続要件)や居住の用に供していること(居住継続要件)があります。

また、特定事業用宅地等や貸付事業用宅地等にも同じような継続要件があります。

つまり、いずれの宅地等も申告期限までは保有し、引き続き居住又は事業の用に供している必要がありますので、申告が済んだからといって申告期限前に宅地等を売却・処分することはもちろん、転居したり事業を廃止するとこの特例は適用できなくなりますのでその点は注意が必要です。

この他、特定居住用宅地等では被相続人等の居住の用に供されているか否か(例えば、二世帯住宅や老人ホーム等へ入居した場合の取扱い)、貸付事業用宅地等では被相続人等の貸付事業の用に供されているか否か(例えば、一時的に空地や空室になっている場合の取扱い)で実質的に特例対象宅地等に該当するか否かの判断が分かれるケースがありますので注意して下さい。

申告方法と添付書類

この特例の適用を受けるためには、相続税がかかるか否か(相続税額の有無)に関わらず相続税の申告書にこの特例の適用を受けようとする旨を記載するとともに、一定の書類を添付して提出する必要があります。

申告方法

相続税の申告書(令和5年分用)で『小規模宅地等の特例』に関連する主な書式としてはほとんどの場合は『第11・11の2表の付表1』の1枚で足ります。

この付表1の第1項(特例の適用にあたっての同意)に特例の対象となり得る宅地等を取得した者全員の氏名を記入することによって”この特例の適用を受けようとする旨”を記載したことになります。

特例の適用を受けない者の氏名も記入する必要がありますので、その点は注意して下さい。当該書式の具体的な記載方法については、毎年国税庁から公表される『相続税の申告のしかた』に相続税の申告書の記載例が掲載されていますので、そちらを参照して下さい。

【参考】相続税の申告のしかた(令和5年分用) 相続税の申告書の記載例

その他の書式は次のような場合に使用します。

第11・11の2表の付表1(別表1)

一つの宅地等を2人以上の相続人等が取得している場合、もしくは貸家建付地の賃貸割合が1(100%)ではない場合に使用します。

第11・11の2表の付表1(別表1の2)

宅地等が配偶者居住権の目的となっている建物の敷地の用に供されている等の場合に使用します。

第11・11の2表の付表1(別表2)

宅地等が相続開始前3年以内に新たに被相続人の事業の用に供されたものである場合に使用します。

第11・11の2表の付表2

『小規模宅地等の特例』の他に『特定計画山林の特例』や『個人の事業用資産の納税猶予』の対象になり得る宅地等の財産がある場合に使用します。

添付書類

申告書には通常必要となる被相続人の戸籍謄本等の他にも、この特例の適用を受ける者が取得した特例対象宅地等の種類に応じ、次のような書類を添付しなければなりません。

提出が必要となるケース書類
共通遺言書の写し、又は遺産分割協議書の写し及び相続人全員の印鑑登録証明書
申告期限後3年以内の分割見込書(申告期限内に分割ができない場合)
特定居住用宅地等で別居親族が提出する場合相続開始前3年以内に居住していた家屋の登記事項証明書や賃貸借契約書 等
相続開始時に自己が居住していた家屋の登記事項証明書 等
特定居住用宅地等で被相続人が直前に老人ホームに入所していた場合被相続人の戸籍の附票の写し
介護保険の被保険者証の写し
特定同族会社事業用宅地の場合法人(同族会社)の定款の写し
株主名簿
法人(同族会社)の登記事項証明書
貸付事業用宅地等で相続開始前3年以内に新たに被相続人等の貸付事業の用に供されたものである場合被相続人等が3年以上特定貸付事業を行っていたことが分かる賃貸借契約書

まとめ

以上、2回にわたって『小規模宅地等の特例』について解説しましたが、冒頭にも述べた通りこの特例を誤って適用したり、減額計算を間違うと相続税額に大きな影響が及びます。

そのようなことにならないように『小規模宅地等の特例』に関して正しい知識を備えておくとともに、特例を正確に適用できるようエピログ相続を有効に活用しましょう。

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