相続税の税務調査

会社を経営されている方や企業の経理部門に勤務されていた方でなければ税務署の税務調査に立ち会われたことがあるという方はまずいないでしょう。

法人税や所得税に限らず相続税にもやはり税務調査というものはあり、しかもここ数年は新型コロナウイルスの影響もあって調査の傾向が少し変わってきています。そこで今回は、相続税の税務調査について最近の傾向も含めて解説します。

目次

税務調査とは

税務調査は、納税義務者からの申告内容に誤りがあり申告税額が過少であると想定される事案や申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案について、税務署がその権限に基づいて事実関係を確認し、公正な課税・徴収を実現するために行う行政手続きです。

税務調査は相続税に限ったものではなく、法人税や所得税、消費税といった主要な他の税目についても当然行われますが、相続税は個人に課される税目としては税額が比較的高額になるケースが多いことから、税額に応じて調査対象となる割合も高くなり易い傾向があります。

一般的に税務調査というと、納税義務者の居所(相続税の場合は被相続人の自宅)に税務署の職員が出向いて対面で面談・調査するイメージがあります(これを「実地調査」といいます)が、この他に文書・電話による連絡や来署依頼による面接によって軽微な申告漏れや計算誤り等がある申告を是正する「簡易な接触」という方法もあります。

相続税に関する税務調査の最近の傾向

相続税の税務調査は過去から行われてきていますが、税制改正によって2015(平成27)年から相続税の課税対象者が大幅に増えたことや、2020(令和2)年からは新型コロナウイルスによる影響もあって、ここ数年税務調査の内容・傾向も変化してきています。

国税庁では、毎年12月にその前年度の相続税の”申告状況(申告事績の概要)”と”調査状況”に関する報告資料をホームページ等で公表しています。

後者の最新版は、昨年12月に公表された『令和3事務年度における相続税の調査等の状況』になりますが、そこから読み取れる傾向としては以下のような点が挙げられます。

【参考】令和3事務年度における相続税の調査等の状況

①実地調査は追徴課税できる確度の高い事案に絞って重点的に実施

実地調査の件数としては、前年度(令和2事務年度)に比べて6,317件(123.7%)と増加しているものの、新型コロナ流行前の令和元事務年度(10,635件)に比べると依然59.4%に留まっています。最近の相続税申告書の提出件数は12万~13万人ですから、そのうちの約5%(20人に1人)が実地調査を受けていることになります。

一方、非違割合(実地調査件数のうち申告漏れ等の非違が認められた割合)は前年度と同様87.6%と高く、1件当たりの追徴税額も886万円と令和元事務年度(641万円)に比べて高い水準が続いています。

また、簡易な接触件数(14,730件)やそれによる追徴税額(69億円)は増加の一途で、いずれも集計が開始された平成28事務年度以降で最高となっています。

このことからも、最近は軽微な申告漏れや計算誤り等がある申告については簡易な接触で積極的に補完しながら、重大な申告漏れがある等の悪質な事案に絞って重点的に実地調査を行っていることが窺えます。

②最近は無申告事案の実地調査も強化

無申告の事案についても、実地調査の件数こそ令和元事務年度(1,077件)に比べて576件と少ないものの非違割合(87.2%)や1件当たりの追徴税額(1,293万円)は高い水準が続いています。

特に、1件当たりの追徴税額は年々増加傾向にあり、悪質な過少申告だけに限らず、本来相続税の申告を行わなければならないにもかかわらず申告していない事案に対する実地調査も強化していることが分かります。

③贈与税も無申告事案(特に現金・預貯金)を中心に強化

相続税と補完関係にある贈与税についても同様の実地調査が行われていますが、件数や1件当たりの追徴税額の傾向は概ね相続税と同じです。

贈与税で特徴的なのは非違割合が相続税と比べてもより一層高く(93.3%)、調査対象となる事案はほぼ無申告(83.1%)、申告漏れの財産としては現金・預貯金が大半(69.2%)を占めていることです。

つまり、贈与税の非課税枠(110万円)を超えて現金・預貯金等の贈与を受けたにもかかわらず、無申告のまま税務調査を受けるとほとんどのケースで追徴課税になっているということです。

相続税の税務調査の内容

相続税の税務(実地)調査は、具体的には次のような形で行われています。

税務調査が行われる時期・タイミング

相続税の税務調査は、申告書を提出する(あるいは申告期限を過ぎる)と直ぐに行われるというわけではありません。

一般的には、申告後又は申告期限から1~2年が経過した夏~秋頃が多いと言われています。

これは、税務署の業務サイクルとして所得税や法人税等の確定申告が集中する2月から6月頃まではその対応に追われることや署内の人事異動が毎年7月に行われることから、税務調査の対象を新たに選別して実際に調査が行えるのは自ずと翌年以降の8月~11月になってしまうと考えられます。

実地調査の大まかな流れ

税務調査とはいっても、テレビドラマのように税務署職員がある日突然自宅に押し掛けてくるということはありません。実際には、調査を行う予定日の数日前に日程調整のための電話連絡が相続人(又は申告書の作成・提出の委任を受けた税理士)にあります。

そこで日程が決まると、調査当日は被相続人が生前生活していた自宅に税務署の職員が数名でやってきて、税務代理を行う税理士がいればその税理士と相続人全員(納税義務者)が同席の上で面談を行います。

午前は主にヒアリングによる事実確認、午後は自宅等での現物確認や資料調査が行われます。事案の内容や規模にもよりますが、実地調査は通常1~2日で終了し、最後に税務署職員から税理士や代表相続人に対して調査結果や指摘事項等の説明があります。

その結果や内容を了承し申告漏れしていた財産等があれば後日修正申告を行って、本税の他に加算税や延滞税があればそれらも含めて追徴税額を納付することになります。

調査の対象になり易い財産は?

以前の記事『相続についてのお尋ねとは』でも解説しましたが、税務署では国税庁内はもちろんのこと、自治体や法務局、金融機関等の各種機関とのネットワークを通じて被相続人の財産に関する情報を事前にある程度収集しています。

その情報と相続人からの申告内容(もしくは無申告の状況)を照らし合わせて重要な相違があるために実地調査が行われるわけですが、その対象は多くの場合が金融資産です。

つまり、調査の対象になる財産は申告から漏れているか、無申告になっている次のようなものです。

金融資産無申告となっていることが多いケース
現金亡くなる直前の預金引出やいわゆる”タンス預金”
預貯金家族名義の預貯金
有価証券家族名義の株式や無記名債券
生命保険家族名義の保険や生命保険契約に関する権利
実地調査の対象となりやすい金融資産

もし、これらがある場合は、実地調査に来る時点で税務署も相当の裏付けと確信を持っているものと考え、無用な抵抗や反論することは避けて慎重かつ真摯に対応された方が賢明です。

まとめ

このように税務調査は一般の方にはなかなか馴染みのないもので、しかも相続開始から暫く経った忘れた頃にやってきますのでできることなら経験したくはないものです。

そのためには、やはり相続人が知り得る範囲でありのままを期限内に申告することが何より大事ですが、国税庁が公表している『相続税の申告のためのチェックシート(令和5年1月以降提出用)』等を活用し、申告に際しては当該シートに従って正しく漏れなく調査・検討したことを書面で示すのも有用かもしれません。

税務調査を受けずに済ませる一つの手段として参考にされてみてはいかがでしょうか。

この記事をSNSで紹介してみませんか。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次